第8夜

 ある人の話を聴いているうちに、ずっと忘れていた昔のできごとをふと思い出したり、しばらく音信のなかった人に手紙を書きたくなったり、凝った料理が作りたくなったり、家の掃除がしたくなったり、たまっていたアイロンがけをしたくなったりしたら、それは知性が活性化したことの具体的な徴候である。私はそう考えている。

──内田樹さんが『日本の反知性主義』のなかで

 

内田樹さんは、知性というのは個人に属するものというより、集団的な現象だと言います。人間は集団として情報を採り入れ、その重要度を衡量し、その意味するところについて仮説を立て、それにどう対処すべきかについての合意形成を行います。その力動的プロセス全体を活気づけ、駆動させる力の全体が「知性」だと。