第9夜

アイデンティティとは他者と共有するところに存在するものなので、自分の内側を探したところで見つからない。そもそも道に迷って右往左往している自分の内に、明快な答えが用意されているはずがない。

探すべきものは、「自分と何かを共有する他者はどこにいるだろう?」なのである。

──齋藤孝さんが『折れない心の作り方』のなかで

 

齋藤孝さんが自分探しをする若者について一言。「本当の自分とは何なのだろう?」と自分の内側を見つめていこうとするのは問いの立て方が間違っている。齋藤さんは人生の進路に迷ったとき、書物に向かったそうだ。この感覚は自分にもわかるぞ、理解できるぞ、というものを読み漁る。著者と共感するたび、自分を確かなものと感じることができる。 

自分とはどういうものかを知るための近道は、自分と共有できるものを持つ人がいることに気づくこと。そういう他者の発見をしていくところにある。ここにもいる、あそこにもいる、と複数のかたちで発見できる人は、アイデンティティの根を広げていける。

 

第8夜

 ある人の話を聴いているうちに、ずっと忘れていた昔のできごとをふと思い出したり、しばらく音信のなかった人に手紙を書きたくなったり、凝った料理が作りたくなったり、家の掃除がしたくなったり、たまっていたアイロンがけをしたくなったりしたら、それは知性が活性化したことの具体的な徴候である。私はそう考えている。

──内田樹さんが『日本の反知性主義』のなかで

 

内田樹さんは、知性というのは個人に属するものというより、集団的な現象だと言います。人間は集団として情報を採り入れ、その重要度を衡量し、その意味するところについて仮説を立て、それにどう対処すべきかについての合意形成を行います。その力動的プロセス全体を活気づけ、駆動させる力の全体が「知性」だと。

 

第7夜

今、僕たち生身の人間はいわば引き裂かれている状態にあります。片一方の足を国民国家にかけて、もう一方をグローバル経済にかけて、股割き状態になっている。気持ちが悪いからどっちかに片付けてくれというわけにはゆかない。引き裂かれてあることを、現代日本のデフォルト(初期設定)として受け入れていくしかない。

──内田樹さんが『脱グローバル論』のなかで

 

グローバル経済と国民国家という統治システムが本質的に矛盾している、利益相反している。この状況がこれからも長く続くだろうと内田さんは言います。 

 

第6夜

職業を決めるとき、「自分の指向からだけで出発しない」は一つの発想のポイントになる。自分がなりたい、やりたいと考えているものだけではなく、自分のいままでの人生がどう活きてくるか、これだったらいままでインプットしてきたものを全部つなげていけるんじゃないか、という視点から考えてみる。

── 齋藤孝さんが『折れない心の作り方』のなかで

 

黒澤明は、早くから映画をつくりたいと思っていたわけではなかった。当時は画家になりたいと思っていたのだが、自分に画家として才能があるのかと気持ちがざわめいた。ふと新聞を読んでいたら、映画撮影所の助監督募集の広告が目に飛び込んだのがきっかけだそう。

映画監督になろうと思って、小さいころからたくさん映画を観て、映画学校に入って、夢の実現に向かっていくのもたしかに一つの道だ。しかし、誰でもなろうとしてなれるものではない。

自分自身の力があれば何にでもなれるわけではなく、さまざまな外的条件、タイミング、縁といったものが働き合って、道は拓かれていく。自分の思いだけ強ければ成功するわけではない。

第5夜

現実問題を肯定的に受けいれるための一つの支えになる装置という視点からすると、縁の概念はかなり使える。

──齋藤孝さんが『折れない心の作り方』のなかで

 

縁というのは、仏教用語でいう因果関係のことだ。森羅万象全ての ことが単独に存在するのではなく、相互に依存して存在しているといった意味がある。

日本人は古来、「縁」という発想で、身の回りの説明のつきにくい事柄を納得してきた。

「ご縁ですから」と思える人は強い。

第4夜

個人の指向性だけで彩られ、自分の心地いいもので固めた快適空間には、他のものを受け入れる土壌がない。そこにだけひたっていると、自分の予想していないことや、自分にマイナスだと感じられることに対応できない。自分の「快」を邪魔する者や、自分とは価値観の異なる他者を受け入れにくくなる。

──齋藤孝さんが『折れない心の作り方』のなかで

 

齋藤孝さんは、自分にとって心地よい者だけで周りを固めていくところには、他者性はないと言います。他者を受け入れることで世界は広がる。 

 

第3夜

日々の暮らしにおいて、周りのいろいろなものを自分の味方につけることを明確に意識化し、一つひとつ「技化」していく。

──齋藤孝さんが『折れない心の作り方』のなかで

 

上機嫌で生きていくコツは、周りのいろいろなものを自分の味方につけることだと思う。